音の葉

音楽を聴いて感じたこと

The Colour and the Shapes - Foo Fighters

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"デイヴ・グロール覚醒!ニルヴァーナ以降の新たな伝説の始まり"

 

今回紹介するのはアメリカで国民的人気を誇るロックバンド、フー・ファイターズ。ファンからはフーファイと呼ばれているので以降、この略称で書き進めることにする。そんなフーファイの大名盤である2枚目だ。前回紹介した「Kid A」が暗い名盤ならばこちらは眩いばかりのギラギラとした明るい名盤といえるだろう。

 

フーファイは1994年に活動を開始する。このバンドをキャリアを振り返る上で切っても切り離せないバンドの存在がある。90年代の音楽シーンにあまりにも大きすぎる影響を与えたバンド、ニルヴァーナである。

 

ニルヴァーナのVo.であるカート・コバーンは「Nevermind」によって大成功を手にするも、純粋に音楽を楽しみたいという感情と、世界的なブレイクでキャッチーな曲ばかり求められる圧迫感のある状況での狭間で揺れて精神的に疲弊しきっていた。限界をむかえていたカートは1994年にショットガンで頭を撃ち抜くという衝撃的な最期を迎える。

 

カートの自殺のあと、Dr.であったデイヴ・グロールは個人的に書き留めてあった数々の曲を引っさげレコーディングを開始する。当初はバンドというよりはデイヴのソロプロジェクトという意味合いが大きく、メンバーも一定せずこの「The Colour and the Shapes」もデイヴが全ての楽器を担当したものが収録されている。

 

ニルヴァーナがダークで陰鬱な歌詞をノイジーなギター、グランジという方法で表現したならば、フーファイはその対照的ともいえるどこまでも明るく突き抜けるような暑苦しいまでの男の世界である。

 

まずメロディー、歌詞、散りばめられたフレーズあらゆる角度から見てもとてつもなくキャッチーで、本来ロックはこうあるべきだというお手本のような1枚だ。ニルヴァーナのドラムという肩書きを抜きにしても、一つのアーティストとして世界的に評価されても全くおかしくない笑ってしまうくらい最高の出来栄えなのだ。このバンドを嫌う人は、まずロックが好きという大前提を無視しているとすら思える。ニルヴァーナの陰鬱なイメージは、デイヴというフィルターを通して前向きに明るく、生きている意味すら提示してくれているような、ポップなグランジの一つの形として昇華されている。そしてポップとはいえ、ハードさも失われておらずデイヴの吠えるようなシャウトもてんこ盛りで気づいたら拳を握ってるような、熱く燃え滾る無敵の1枚なのだ。

 

「Monkey Wrench」、「My Hero」、そして大名曲「Everlong」のように現在でもライブでは欠かせない重要な曲ばかり収録されており、ライブでは大合唱が起こるのは恒例。「My Hero」はカートのことについて歌われているという説がファンの中では有力だが、このアルバムが発売されたのはカートの死後からわずか3年。一つ一つの曲の歌詞を読み進めるが、どの文脈においてもカートという男に、点と点のように繋がってしまうのは果たして自分の過度な思い込みなのだろうか。結局本当のところはデイヴ本人にしかわからないわけだが、そんな考察をするまでもなくカートに対する壮大なレクイエムの数々としては大きな意味を成すだろう。

 

このアルバム以降、フーファイのメンバーは安定しバンドの形態として活動していく。2010年にはニルヴァーナ時代からのツアーメンバーであったパット・スメアが再び舞い戻り、2017年にはキーボードのラミ・ジャフィーが加入するなどバンドとしては現在最強のモードである。そしてグラミー賞を何度も受賞して音楽的な成功を掴み取る一方で、デイヴという男は全世界のロックリスナーから愛される兄貴分とも言えるキャラクターへと変化していく。今やアメリカのロックシーンの看板を背負うビッグスターである。

 

もしもカート・コバーンが生きていれば、デイヴ・グロールの音楽的才能をもしもリアルタイムで見ていたなら。フー・ファイターズというバンドをもしも知っていたなら。

そんなことを思いながらフーファイを聴いてしまう自分がいる。