音の葉

音楽を聴いて感じたこと

Kid A - Radiohead

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"僕らはどうしようもない、この世界には絶望しかない、こんな時代に僕らは生きている"

 

このブログの記念すべき1枚目はこのアルバム、90年代オルタナシーンを代表するバンド、レディオヘッドの4枚目だ。

 

ちなみにレディオヘッドは筆者が最も多大な影響を受けているアーティストでございます!

 

正直なところ、こんなにも暗いアルバムを1枚目にするのもどうかと思ったが、僕の人生観を決定づけた1枚であることには変わりないし、音楽ってものをまだそんなに知らない頃にこの1枚に出会って雷に打たれたような衝撃を受けたことは未だに忘れることはない。

 

まず音の方だが、本当に暗い。どうしようもなく暗い。

ロック特有の何かに向かってがむしゃらに楽器を鳴らすようなバンドの姿は無く、ひたすらに目の前を見据えて淡々と奏でられる氷点下のシンセサイザーメインのサウンドになっている。しかし、そんな絶対零度の中でも心地よく眠ってしまうような妙な安心感や温もりは失われてはいない。僕はよくこのアルバムを子守唄代わりに寝る前にかけたりする。

 

時には「The National Anthem」での不気味なミニマリズムからのホーンセクションによるジャジーなアレンジだったり、「Treefingers」でみられるようなアンビエント、さらには映画音楽からの影響などかつてのレディオヘッドのキャリアを知っている者からすれば想像をはるかに超える大胆すぎる変貌ぶりに腰を抜かしてしまうことだろう。僕は後追い世代なのでこの感覚をリアルタイムで味わってみたかったとつくづく思ったりする。既存のオルタナティブロックというフォーマットをエレクトロニカというやり方で大幅に刷新し、"脱ロック"ということを高らかに宣言した大問題作なのである。いくら前衛志向の高いロックバンドとはいえ、ここまでの変化は頭がおかしくなったと思ってしまっても仕方がない。しかしトム・ヨークは恐れることなく、2000年という新たな時代に突入した幕開けとしてはあまりにもサプライズなサウンドを世界に知らしめた。

 

レディオヘッドを知らない人がいきなりこのアルバムから聴き始めたらそれはそれで大怪我をすることになる。というか間違った認識でこのバンドを捉えてしまうことになりかねない、このレディオヘッドというバンドにおいては1stから順に追って行くのが正しい聴き方だと僕は思う。アルバムを順に追うと本当にサウンドの変化に驚かされる、ここまで音楽性をコロコロ変えるのかと。初期は「Creep」をはじめとした純然たるギターロックバンドの側面を見ることができるし、90年代のオルタナティブっていうのは歌詞も自虐的且つ不安げでどうしようもない怒りを表現したかったということがよくわかる。

 

レディオヘッドは本来はギターロックバンドとしてキャリアをスタートして、初期にはグランジやインディーロック然とした曲も多く残しているのだが、このアルバムに至ってはギターをもはや捨てている。当時、Vo.のトム・ヨークは「ロックなんてゴミ音楽だ!」なんていう痛烈な発言をしているが、ロックバンドのようなたくさんのオーディエンスに呼びかけるようなある種の一体感のようなものには飽き飽きしていて、極めて個人的な内省的な世界観を構築し始めた。

 

その前触れは3rdアルバムである「OKコンピューター」から感じ取れてはいたが、肉体感溢れるギターロックというステージから、ひんやりとした悟りを開いたような地に足がつかない感覚を覚えるような、スピリチュアルな音楽的表現に達するのだ。もちろんバンドとしては非の打ち所がない大名盤なのだが、今までのバンド全体で賑やかに作っているような曲ではなく、トム・ヨーク個人の世界観が歌詞だけではなくメロディーという部分にまで侵食した結果がこの「Kid A」なのだと考えさせられる。レディオヘッドというバンドは変幻自在に姿を変えながら決して退化したりせず進化を続けるバンドであるということに毎回驚かされるし、理想の音楽的変化の在り方を提示している数少ないバンドだ。

 

現代のビートルズとも呼ばれる、レディオヘッドを是非聴いてみてはいかがだろうか。